深谷教会待降節第4主日礼拝(アドベント)2022年12月177日
聖書:ルカによる福音書1章26~38節
説教:「み心のままに」
法亢聖親牧師
(映像はございません)
説教題 「み心のままに」 ルカによる福音書1章26節~38節
「マリアは言った。『わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。』そこで天使は去って行った。」(ルカ1:38)
私たちの人生には当たり前と思っていたことが突然ストップし、まったく未知の世界に導かれることが起きます。受け入れがたい、予想だにしないことが起こることがあります。人はそうした時、動揺したり、不安を感じます。
イエスさまの母となったマリアもそうでした。天使ガブリエルの突然の訪問を受け、いきなり「救い主を身ごもる」などと告げられ、12歳の少女は驚き、戸惑いました。否、マリアは、命の危機に立たされたのです。一歩間違えればユダヤの律法の違反者として石打の刑に処せられる状況におかれたのです。
英語の聖書では、このルカ福音書1章38節の「お言葉どおり、この身になりますように」と言うマリアの言葉は、「Let it be to me according to your word.」と訳されています。マリアにとって、天使が告げる、予期しなかったことは、命に関わることでした。ルカ福音書のマリアは、心の中は不安でいっぱいだったにもかかわらず「Let it be お言葉どおり、この身になりますように」と決然と応えたのです。
ビートルズの最後のアルバムに収められた曲となった「レット・イット・ビー」は、ジョン・レノンではなく、ポール・マッカトニーが作詞した曲です。次のような歌詞です。「私が苦しみや迷いの中にある時に、母マリアが現われて、知恵ある言葉を語りかけてくれる。“み心のままに”と。暗黒の闇に呑み込まれてしまう時、マリアは私の前に立ち、知恵ある言葉を語りかけてくれる。“レット・イット・ビー:み心のままに”と。たとえ打ちひしがれても、世界中で思いを一つにすれば、必ず答えを見い出すことができる。“み心のままに”。たとえ離れ離れになったとしても、また会える日がくるかもしれない。いつか必ず答えは見つかる。“み心のままに”熱き雲が空を覆う真っ暗な夜でも、私を照らす光がある。どうか明日まで輝き続けて欲しい!“み心のままに”。そう、いつか答えが分かる日が来るだろう。「“レット・イット・ビー:み心のままに”」
ビートルズの最期のアルバムを制作している時に、メンバーの心はもうバラバラになっていました。録音の最中も言い争いが絶えなかったそうです。そんな夜、ポールが14歳の時に亡くなった母親が夢に現れたのです。母の名は、英語名でメアリー、つまり、マリアです。そこでポールは、聖母マリアと母メアリーとを重ね合わせて「レット・イット・ビー」と言う曲を書き上げたのです。何とかしてこれからも長年やってきたこのメンバーで一緒にやって行きたいと言う思いを込めて・・。当時のポールは、幼児洗礼を受けていたもののあまり熱心なクリスチャンではなかったようですが、母が語ってくれた聖書の言葉を思い出し、現実を「あるがままに」受け止め、そして神さまの導きにゆだねて、新たな一歩を踏み出そうとしていたのではないでしょうか。
「レット・イット・ビー」「御心のままに」「あるがままに」と日本語に訳してしまうと、まるで諦めのことばのように聞こえるかもしれません。しかし、本来、この言葉は諦めの言葉ではないのです。この曲には、マリアの言葉の半分しか引用されていない所からそのような誤解が生じてしまいがちですが、マリアの語った言葉には、「あなたのお言葉どおり」ということばが付け加えられています。マリアは、明らかに、「自分に示された神さまのみ言葉が、その通り、自分の人生に実現しますように」と語ったのでした。つまり、マリアの言葉は決して諦めの言葉ではなく、むしろ「自分の人生をまるごと神さまの御計画に委ねます。」という決意表明だったのです。
もちろん年若いマリアは、この時、すべてが理解できたわけでも、納得できていたわけでもありません。突然のことで何が何だか分からなかったのだと思います。けれども天使の言葉を神さまからの言葉として受け止め、これから先、どんなことが起こるのか分からないままに、神さまを信じて、すべてを神さまに委ねようと決意したのです。
私たちも、しばしば思いもよらない仕方で、神さまの働きに押し出されることがあります。この道が一体どこに向かっていくのか見当もつかないことがあり、そもそも、この道は自分が望んだ道ではない、そう言ってしぶしぶその道を歩んでいくことがあります。
だがその時は、理解できなくても、この時のマリアのように、神さまは必ず、私たちにとって最善のことをご計画しておられるのです。そのことを信じて私たちも、マリアのように、「“レット・イット・ビー:お言葉どおり、この身になりますように”」と神さまに全面的にお委ねして生きて行きたく思います。